1ユーロの原動力

大道芸で踊っている間は、近くにコインを入れるためのお椀を置いている。

始めたばかりということもあり、なんか気になってしょうがない。お椀に近づく人が
いると「おっ、入れてくれるのか」という甘い期待や「コインは入れたままで
平気かな?」なんていう軽い不安があったりと、ちょっと余計な考えが頭を
よぎることもしばしば。基本的には踊りに集中している。とは言え、コインの
音はするので、何人くらい入れてくれたかというのは見なくてもよく分かる。

前回と同じ場所で芸を披露。あまり長い時間やらなかったというのもあるが、
コインの音はほぼ聞こえることなく、芸を終えた。

きっとこんな日もあるんだな。と、芸をした場所からそんなに遠くない木の陰に
なっているベンチにて、一人反省会をしながら着替えをしていると、誰かがこちらの
方に向かって歩いてきているような気配を感じた。

怖いなと思い、顔を上げると、目の前には二十歳前後の眼鏡をかけた女性が立っていた。
その女性と目が合うと、とても早いスピードのドイツ語が聞こえてきた。
全く聞き取れない、と瞬時に判断した私は彼女のジェスチャーに意識を向けると、
彼女は私を指差し、そして私が踊っていた場所を指差している。
そして何か一言二言話した後、笑顔の彼女はあるものを私に手渡してくれた。

それは、1ユーロコインである。

彼女はコインを私に渡すと、笑顔で"Tschuess!"(さよなら)と言い去って行く。

私服に着替え終わっていたし、お椀ももちろん片付けていた。しかも、異国の
人間であるにも関わらず、コインを渡しに来てくれた彼女のその後ろ姿に
感謝すると同時に、とても胸が熱くなった。

『俺はこのためにやっているのだ』

お金のためではない。(もちろん、頂いたお金は有り難く喜びのある方へ
使わせて頂きます)


感動を与えてくれた彼女に感謝だ。
この1ユーロは一生私をパフォーマーにさせ続けるだろう。

DANKE!!!!!!!!!!!!!



















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